教育長あいさつ 令和3年9月号

ページ番号2003590  更新日 2022年4月28日

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写真:教育長

 

「社会的正義と教育的正義」

 4回目の緊急事態宣言が発令されている中、本市小中学校において順次2学期がスタートしています。いくつかの自治体では、夏季休業日を延長したり、登校せずに自宅でのオンライン学習に切り替えたりという措置を取るようですが、子供たちにとって最も重要なことは、人と人とのかかわりあいの中で、学び、育つことです。本市では文部科学省からの通知に基づき、「如何なる状況下でも学びを止めない」の理念の下、これまで以上の十分な感染対策を行いながら、通常通り学校に登校し、教室で授業を受ける形をとることを原則としています。

 しかし、家庭内感染が急増している中、通常通りの授業が難しい状況に置かれることも十分考えられます。その際は、学校、学校医など関係機関との協議によって、教育委員会が学校に対して、当該学級(もしくは当該学年または全学年全学級)について、分散登校としたり、短縮授業としたり、ICTを活用したリモート授業を併用したりしながら、教育課程を進めていく(=学びを止めない)ことを指示していきます。

 また、感染が怖く登校できない(登校させたくない)という場合であっても、欠席扱いとすることはせず、GIGA端末を家庭に貸し出し、学校からオンラインで配信される授業を受けることで「出席」とすることができる環境(=ハイブリッド型教育環境)を整えているところです。

 如何にコロナ禍であっても、学校は子供の成長に責任を持たなければなりません。そのため学校には、教科の授業だけでなく、子供たちが成長する様々な時と場や仕掛けが用意されています。

 中でも子供たちが「グンッ」と伸びるのが、移動教室や修学旅行といった集団宿泊行事です。私の現場経験の中でも、観光している外国人から発音を褒められ英語に自信を持ち、英検の準2級に合格した生徒、京都のお寺に興味を持ち徹底的に調べ上げて東京都から表彰を受けた生徒(その後彼女は京都市役所に就職)、おとなしく目立たない生徒だったのに、グループ行動を通して判断したり行動したりすることに自信を持ち、高校で生徒会長に立候補、見事当選した生徒、同じ釜の飯を食らい、枕を並べて寝ることで、これまで話をしたことすらなかった友達の新たな一面を知り生涯を貫く親友同士となった生徒…。

 そんな宿泊行事を、これまで本市では小学校5年生(立科)、小学校6年生(日光)、中学校2年生(スキー教室)、中学校3年生(主に京都、奈良)と、それぞれ学年に応じた成長を目標に実施してきました。
 しかし令和2年度、政府による全国一斉休校の措置が取られたことから、これらの宿泊行事は一切中止となってしまいました。きっと子供たちは「友達と枕を並べて眠れる移動教室は楽しみ」「最後の修学旅行で生涯の思い出を作りたい」…、こう思っていたはずです。「東照宮を見て日光の歴史を肌で感じたい」「立科で観た星空が忘れられないから天文の勉強がしたい」「京都で座禅を体験して悟りの境地に至りたい」等の宿泊行事を通した「学びの感動」を得たいと願っていたはず。一斉休校という措置はそんな子供の純粋な思いを握りつぶしてしまったのです

 居ても立ってもいられなかった私たち教育委員は、子供たちに対して「君たちも社会の一員なんだから我慢しよう!」とメッセージを出しましたが、教育者として心を痛みは止められませんでした。「もう二度とこのような辛い思いを子供たちにさせることはしない!」と心に誓ったのです。

 令和3年、新年度になってもコロナ禍は収まりませんでした。再再度の緊急事態宣言の発令。「宣言発令中は宿泊行事は実施しない」の原則を固めていた本市教育委員会は、一学期中に実施予定であった宿泊行事について2学期以降に延期の措置を取らざるを得ませんでした。しかしそれでも感染は収まりません。

 人流を制限しようとしても、行楽地は県外ナンバーであふれかえっているといいますし、営業時間の制限やアルコールの提供中止を要請しても、それに反する店には人が群がっています。同居家族以外の人との会食は行わないようメッセージを出してもそれに従わないで飲み食いをしている人も少なくありませんし、いわゆる「路上飲み」で大声で騒ぐ若者の姿も報道されています。
「自粛疲れ」もわかりますし「このままでは生活が立ち行かない…」という悲鳴に耳をふさぐ気はありません。しかし、その反動によって子供たちに悲しい思いをさせてしまっていること、未来の日本を担う子供たちの貴重な学びの機会を奪ってしまっていることを、是非、社会に大きな影響を与える年代の方々に理解していただきたいと思っています。
 結果、悲しいことに9月12日まで宣言が延長されてしまいました。まさかこのような事態に陥るとは予想すらしていなかったことから、一学期実施予定であった何校かの学校が、この宣言期間中に宿泊行事を再設定してしまっていたのです。

 「宣言期間中は宿泊行事は行わない」の原則を貫くと、一つの小学校については、6年生の就学旅行の実施が困難になります。3学期に受け入れ先の宿を押さえることはほぼ不可能であることから再度の延期は難しい状況だからです。彼らは令和2年に立科の移動教室が中止になっており、日光修学旅行もできないとなると、小学校6年間、一度も貴重な学びを得ることができる宿泊行事を体験せずに小学校を卒業することになります。

 一つの小学校は立科移動教室の実施が困難になります。他の8校の小学5年生が立科での体験をもとにぐんぐん成長しているにもかかわらず、当該校の子供たちだけはそれが叶わないのです。中学校の修学旅行も同様です。一つの中学校の生徒だけ義務教育の集大成たる学びと成長のチャンスを失ってしまうのです。

一部の子供だけに悲しみや苦しみを背負わせることはできないと考えた私たち5名の教育委員は、文部科学省が発した「修学旅行など(略)についても有意義な教育活動であるため、その教育的意義や児童生徒の心情を踏まえ、一律に中止とするのではなく、(略)適切な感染防止策を十分に講じたうえでその実施についてご配慮いただきたい」という通知に基づき「緊急事態宣言下であっても、でき得る限りの感染防止対策を行ったうえで、宿泊行事は実施する」と方針を転換しました。

 学校教育は社会的システムの一端です。「社会的正義」を具現しなければならない「使命」を背負っています。しかし反面、子供の想いを最も理解しているのは学校(教職員をはじめとする学校教育関係者)であって、何をさておいても子供を「主語」にして語らねばならないのも学校(同)なのです。意思決定権を持たない子供たちの思いを代弁できるのも学校(同)だし、最大限の策を講じて子供たちの想いを実現するのも学校(同)なのです。だから学校(同)は子供の成長のためにでき得る限りの知恵と力を注がなければならないし、そうできる「唯一の社会的機関」といってもよいのです。

 もしかしたら私たちの判断は「社会的正義」に反した「教育の正義」を貫くものかもしれません。しかし「胸を張って教育の正義を主張できるのは学校(同)しかいない」こともまた事実なのです(だから文科省もこのような社会的状況下においても上記メッセージを発信したものと考えます)。

 感染防止策には100%完全はあり得ません。しかし100%に限りなく近づけていくことはできるはずです。市のガイドラインを作成しましたが、これは都や国、旅行業者のガイドラインと整合して作られたものです。私たちはこのガイドラインを確実に履行し『子供たちの命を守りながらも学びも成長も保証する宿泊行事』を創り上げていく覚悟です。

 この努力によって子供たちの願いや思いに応えてあげることこそが、これまで子供たちに多くの重石を背負わせてきてしまった、私たち大人のことも達に対する唯一の贖罪であり、感謝の想いであり、清瀬の、日本の、世界の未来を担う彼らへのエールでもあるのではないでしょうか。
 

教育長 坂田 篤(さかた あつし)

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