教育長あいさつ 令和3年7月号

ページ番号2003581  更新日 2021年9月1日

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写真:教育長

 

「人に良いと書いて食と読む」

本市教育委員会ホームページの特徴の一つに、各学校の「給食」の情報が多いということが上げられるはずです。【新着情報】には「〇〇中 今日の給食」「給食だよりアップしました」「〇〇小 給食食材産地表示」等の表題が並んでいるし、クリックすると美味しそうな給食の写真が目に飛び込んできます。

写真だけではありません。「けんちん汁はお寺の小坊主が誤って落とし、崩れてしまった豆腐を、和尚が野菜とともに煮込んだことが始まり」等のミニ知識を含めたメニューの解説、「子どもたちに少しでも美味しく、栄養のある食事を!」と願いながら作業している調理員さんたちの様子、健康の保持増進、国際理解、郷土を愛する心、感謝の気持ちなど、食を通して多くを学んでほしいという想いが込められた栄養士のコメント…。各校の給食にかかわる情報をネットサーフするだけで、食の魅力、価値、大切さ、そして300円以内という低価格で、安全でおいしくて、栄養価が高い食事をいただけるありがたさに気づくことができます。

これら食に関する豊かな情報発信は、栄養士の皆さんの努力の成果以外の何物でもありません。また「食育」の大切さを、学校全体で共有しようとする、「チーム学校」の前向きな意識が具現化されたものともいえます。この努力を、そして子供たちの学びを一層確かなものとして定着させる方法があります。それは「食育」の授業の充実です。

「食育」は「道徳」と近しい営みであるように思います。子供たちは日常のありとあらゆる場面を通して「道徳的な価値」を学んでいます(「学ばせるように導く」のが道徳教育)。例えば電車内でお年寄りに席を譲る人を見て「親切、思いやり」という価値を、例えば親友との約束を破ってしまった後悔の思いから「友情・信頼」を、例えば掃除をしない友達と言い争いをしたいやな気持から「勤労、公共の精神」を、例えば清瀬が誇る自然と触れ合うことで「自然愛護」や「生命尊重」を…、というように。

しかし、その「学び」の度合いは子供によって温度差がありますし、深く感じる子供もいれば感じ取りが浅い子供もいる。よほどのことがない限り、体験は一過性のものになってしまう可能性も高い。だから「道徳授業」で、これらの日常的な体験を通して感じた「道徳的価値」を補ったり、深めたり、またそれぞれの体験をつなぎ合わせたりしながら、より確かに育んだり、行動に起こせる力を養ったりしていくのです。

「食育」も全く同じ。食を通して学べることはたくさんある。「健康」「栄養」「安全」「感謝」「幸せ」「環境」「国際理解」…。「美味しい」「不味い」だけでなく、子供たちは食べ物を口に入れながら色々感じているし考えている(そうさせるのが「食育」)。これら日常の「食べて考えたり感じたり」したことを補充したり、深化させたり、統合させたりして、より確かな「食」への理解と、行動力、実践力を育むのが「食育の授業」。

人にとって「食べること」は当たり前の行為。しかしこの「当たり前」が決して「当たり前ではない」ことに気づかせた瞬間に、子供たちの食に対する意識もかかわり方も変わる。「食育の授業」はそれを誘う力も持っています。

世界には飢えに苦しむ人が8億2千万人(何と9人に一人の割合)。3万1千人の子供たちが、毎年栄養不足で亡くなっている。南アフリカのソマリアでは94万人の子供が満足な食べ物を口にできず、南スーダンでは100万人の子供たちが飢餓状態にある…。

食育の授業でこんな事実と向き合ったら、子供たちは「自分たちは何と豊かな食生活を送ることができているのだろう…」「お腹一杯、食べることができる自分はなんと幸せなんだろう…」との思いを巡らせることは間違いありません。すなわち、一枚の写真が、日々の食事を通してほんの少し感じていた「健康」「栄養」「安全」「感謝」「幸せ」という価値をより確かなものへと発展させてくれるのです。

そして「なぜ、国によって実態がこれほどまでに違うのか」を考えさせることで、「民族間の紛争」「干ばつなどの自然災害」「国家レベルでの経済格差」「大量消費、大量廃棄」等の社会的問題にまで、子供たちの学びを広げ、深めることができるはずです。そうです。この写真は、子供たちを「社会」につなげ、「自分は何をすべきなのか、どう生きるべきなのか」という、社会の一員であることへの自覚を呼び起こしてくれるのです。

また「もしかしたら10年後の給食のメニューはジャガイモだけになるかもしれない」と投げかけたら子供たちはどう思うでしょう。

ある栄養学の先生から「2030危機」という話を聞きました。2030年には学校給食が維持できなくなるという未来予想があるとのこと。簡単に説明すれば、我が国は人口減少期を迎えているが世界的に見れば増加の一途。2050年には現在の1.6倍の95.5憶人になる。当然食料の消費も高まる。人口に反して全世界の穀物生産量は減少傾向。温暖化などの環境破壊が拍車をかける。穀物が取れなければ牛も豚も飼育できない。ご存知の通り我が国の食料自給率は先進国中最低。必然的に食糧不足となって口にできるのはイモ類だけになる。それも油がないからアレンジは限られて調理法は「蒸す」「茹でる」くらいしかできない…。これは最悪のシナリオかもしれませんが、世界の食糧事情は危機的な状況にあることは間違いありません。

「芋ばかりの給食はチョット…」「ではどうすればいいんだろう…」子供たちは考える。すかさず教師がこんな数字を示す。「612万トン、東京ドーム5杯分」。言うまでもなく我が国の一年間の食品ロスの総量。一人当たりに換算すると毎日ご飯お茶碗一杯分をゴミ箱に捨てている計算。金額にするとなんと11兆円にも上る。

「焼き肉が大好き!」という子供を指名する。「食べ放題の店に行ったことがある?」「そこで感じたことはないかな?」。食べ終えたテーブルを覗くとルール無視の大量の肉が残っていることに気づく。当然これらの肉は廃棄処分。スーパーの賞味期限切れの食品もすべて廃棄処分。各家庭の冷蔵庫の中で、茶色っぽく変色したキャベツもゴミ箱へ…。こんな気づきによって、これまでの反省の思いと、次なる行動への決意が心に満ちる。

アメリカ人のインタビュー動画を見せる。「日本は外食して食べきれなかったものを持ち帰れないのね!」。アメリカではほとんどの店で「ドギーバッグ(持ち帰り用容器)」が用意されている(コロナ禍で日本も持ち帰り文化が開花した)。

「他の国は、食品ロスについてどんな取り組みをしているのだろう?」と問いかける。調べてみるとフランスでは食品廃棄法があり廃棄の量に応じた罰金制度がある…、デンマークには賞味期限切れ食品の専門スーパーがオ-プン…、スペインでは余った食品をシェアする「連帯冷蔵庫」が地域ごとに設置されている…、子供たちは国際的な視野で課題を見つめようとする。まさに「食は子供を健康にする、そして賢く、豊かにもするし、社会の担い手として育てもする」のです。だから「人」に「良」いと書いて「食」なのかもしれません。

学びの宝庫である「食」を如何に「料理」して「食育の授業」に落とし込んでいくか。各校の実践が楽しみです。
 

教育長 坂田 篤(さかた あつし)

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