教育長あいさつ 平成31年2月号

ページ番号2000034  更新日 2020年8月30日

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写真:教育長

「第10回 中学生東京駅伝大会を終えて」

春光と 希望を背負い 走る君(酔花幻)

2月3日(日曜日)、春を思わせるような暖かな日差しの下、第10回中学生東京駅伝大会が開かれました。50市区町から選出された中学2年生の精鋭たちが男子42.195Km、女子30Kmにわたって襷をつなぎます。本市からも合計42名(走者は男子17名、女子16名)が参加しました。

大会に先立つこと三日前、1月31日に壮行会が行われ、私は冒頭のあいさつで「三つの勝負」の話をしました。これは私が中学生の時に担任の先生から聞かされたもので心にずっと残っている話です。

一つ目の勝負は「他者との勝負」。「あいつにだけは負けない」「目の前を走るこいつを抜き去ってやろう」「後ろを走る選手との距離を少しでも広げてタスキを渡す」…。この「人と人との競い合い」はかかわった者の力を確実に伸ばします。トップアスリートの多くはこうやってのし上がってきたはずです。

反面、いざ「何をやってもあいつにはかなわない」「目の前の選手の後姿がどんどん小さくなっていく」「後発の選手に次々と抜かれる」の状況に置かれると、「あきらめ」の気持ちを持ったり自己肯定感が落ちたりしてしまいます。この経験を繰り返していくと最終的にバーンアウト(燃え尽き症候群)に陥ることも少なくありません。

二つ目の勝負は「記録との勝負」。例えば男子の過去最高タイム2時19分時29分(江戸川区)、女子最高タイム1時50分:16(八王子市)を目指したり、本市昨年度男子2時29分:55、女子2:5時31分の記録を超えるように努力する。若しくは過去最高記録におけるトップとの差(男子7分18秒 女子9分27秒)を縮めるように頑張る。

このように「記録との勝負」は個々の実態に応じて様々な観点で設定できますし、タイムという客観的な指標があるので評価しやすいという利点があります。ただし子供にとっていかなる指標を使うことが最も適切か、最も教育的か、それを判断するのは親や先生方。その責任は大きいことが分かっていただけると思います。

三つ目の勝負は「自分自身との勝負」。「つらい、しんどい、もう走れない…」「でもあと少し、次のコーナーまで、もう一歩…」。折れそうになる心と戦う、諦めそうになる自分に鞭打つ、動こうとしない己の足を歯を食いしばって一歩前に踏み出す…。このような「自分自身の心との戦い」は確実に精神力を鍛え、少しのことではくじけない「強か(したたか)な心」を育てます。

しかしこの「精神力」は一朝一夕には育まれません。挑戦しては失敗し、失敗しては挑戦し…、この繰り返しにより少しずつ積み重なっていくのです。このプロセスで最も重要なのは「支援」。適切な支援がなければ自己肯定感が低下するし、「決めてもできない弱き人間」と自分に烙印を押すことになってしまいます。

「大丈夫!」「次こそ頑張ってみよう」「自分もたくさんの負けを経験してきた」「よし、一緒に再挑戦するか!」…。教師こそ、また親こそ最大の理解者であり支援者でありたいものです。

この「三つの勝負」のどれを選ぶかはそれぞれの自由。しかし選んだ「勝負」には諦めずに最後まで挑み続け、勝利を我が手でつかんでみろ…、これが私から彼ら(そして彼らを指導し、支援してくれた先生方)に贈ったメッセージでした。

そしていよいよ大会当日。大声援の中午前10時女子の部がスタート。一人の走り終えた選手が選手控え室を兼ねたテントに戻ってきました。応援に来た母親の「頑張ったね」の言葉におもわず涙があふれます。練習の時のような走りができず、何人かのランナーに抜かれてしまったというのです。「勝負に挑戦し敗れた自分」がふがいなく、情けなく、悔しく、チームに対して申し訳なかったのでしょう。

思わず私は彼女に声をかけました。「人間誰もが結果がほしいし成功を望んで努力をする。しかし努力と結果や成功は必ずしもイコールではない。それどころか世の中には努力をしても結果が伴わないことの方が多い。どんなにベストを尽くしても失敗することもたくさんある。反省は大切。しかし結果が悪かったことだけを嘆き、悲しみ、成功しなかったことを悔いたり、自分を責めたりするだけでは絶対にいけない。その時、その時のベストを尽くし、成功しても失敗してもその結果を次に生かして『ベストのレベル』を上げていく…。この積み重ねで人は少しずつ成長していくのだ」。

午後1時に男子の部の号砲。直後アクシデントが。第一走者の本市生徒が集団の中で足がもつれ転倒したのです。誰もが「ハッ」と息をのみます。すぐ立ち上がり再び走り始めたときはすでに最後尾。前を走る選手との距離も広がってしまっています。清瀬の応援席からは落胆のため息が聞こえてくるようでした。

ほどなくして周回コースを走り終えた選手が次々とフィールドに戻ってきました。清瀬のブルーのウエアとハチマキを探します。「いた!」。何と2名のランナーを後ろに従えていたのです。転倒の痛みをこらえ、なおかつ2名のライバルを抜き去って帰ってきたのです。大声援の中を必死に走る彼の表情、そしてその心の中を思うと思わず涙が出そうになりました。その後の男子チームの後半の追い上げは感動的ですらありました。

男女とも走り終えて応援席に戻ってきた選手の表情は晴れ晴れとしていました。「楽しかった」と笑顔で応えてくれる選手もいました。この瞬間、私の中で「一つ目の勝負」、すなわち「他者との競い合い」は大きな意味を持たなくなりました。結果を待つまでもなく東京駅伝が清瀬にとって最高の行事になったことを確信したからです。

「女子32位」「男子33位」が今回の大会の結果(速報値)です。「チーム清瀬」として果敢に挑戦した「他者との勝負」「記録との勝負」については思い描いた結果ではなかったかもしれませんが、この大会を通して、42名の生徒たちは必ずや「自分の中での小さな成長」を見つけ、「次の成長へのヒント」を手に入れてくれたはずです。「自分の限界」も知ることができたかもしれないし「私もこんなに頑張れるんだ…」と新たな自分を発見できた生徒もいたかもしれません。「応援してくれる人がいるからこそ自分は頑張れる」という関わりの大切さを実感した生徒や、友と力を合わせて困難を乗り越える尊さを学んだ生徒もいたことでしょう。これらはすべて駅伝が与えてくれた「学び」であり「成長」なのです。

このような子供の成長、学びを引き出してくれた総監督堀内校長(第五中)、男子監督中田主任教諭(第三中)、同コーチ長主幹教諭(第四中)、同養護担当新井主任養護教諭(第四中)、女子監督徳永主幹教諭(第二中)、同コーチ角屋主幹教諭(第五中)、霜越教諭(清瀬中)、同養護担当大久保主任養護教諭(清瀬中)に改めて心からの御礼を申し上げます。また当日に至るまでの練習で指導してくださった西部共同事務室の神田主事、福島スクールソーシャルワーカー等多くの方々に、当日応援に駆けつけ、声を限りに応援してくださった各中学校管理職、教職員の方々、保護者・地域の皆様に、そしてすべての関係者の皆様に深く感謝します。

我々は間違いなく「チーム清瀬」になった…。そう確信できる一日でした。

教育長 坂田 篤(さかた あつし)

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