教育長あいさつ 令和3年6月号

ページ番号2003580  更新日 2021年9月1日

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写真:教育長

 

 

「読まねば心は育たない」

 

 

 

 

 清瀬小学校のHpに市立図書館の司書によるブックトークの様子が掲載されています。Hpの写真を一枚拝借しました。子供たちが本の内容をイメージしやすいように各ページをつなぎ合わせた本(何と7m。「絵巻絵本」というのだそうです)に、思わず身を乗り出して見入る子供の様子が写っています。司書の話に聞き入っている子供たちの様子も見て取れます。「何、これが本なの?」「うわー、面白い!」「このお話どうなっちゃうんだろう…」、教室中が子供たちの歓声やワクワク感であふれかえっているようです。

 子供は我々大人が忘れかけてしまっている「正直さ」を身に纏っています。時にそれは大人にとって残酷と言えるほどの「正直さ」。授業中はそれが教師の目の前に突き付けられます。授業がつまらなければ欠伸をするし、よそ見をし、手遊びを始めるし、背筋が丸くなっていく。逆に面白くて興味が沸く授業であれば、笑顔になり、真剣な眼差しを向け、前のめりになり、誰に指示されずとも学び始め、時を忘れたかのように学びに没頭していく。すなわち子供の表情や姿は、最も正直で適切な授業の評価指標なのです。

 図書館司書は「本のプロフェッショナル」。本の面白さ、読書の楽しさを誰よりも語ることができる、読書嫌いな子供を本に誘うことができる、目の前の子供一人一人にぴったりの本を与えることができる、疑問を解くためにどの本を参考にすればよいのかを示唆することができる、図書館に足を向けさせることができる、本好きな人をもっと本好きにさせることができる…。

 ある司書がこんなことを言っています。「一冊の本が人生の背景になることもある。そんな本を見つけた子供の姿を見られるのが学校司書の最高の魅力」。生涯を生き抜く「拠り所」を与えてあげる力も司書にはあるのです。上の写真は、そんな司書が持つ力の可能性を感じさせるものです。

 読書の力を論ずるまでもないことでしょうが、「食べ物は体の栄養 本は心の栄養 食べないでは体が育たない 読まないでは心が育たない」という言葉が持つ意味をもう一度考えてみたいものです。なぜ読書で心が育つのでしょうか。読書は「主人公との出会い」、そして「自分自身との出会い」ができるからです。

 集中して読み進めていくと、いつしか主人公と自分自身とを重ね合わせたり、主人公の考え方や行動と自分自身のそれとを照らし合わせたりしている自分に気づきます。「自分ならこの場でこんな言葉を発するかもしれない」「エッ? なんでこの主人公はこんな行動をとるの?」「この主人公、私と同じ悩みを持っている」「私だったらこんな生き方はしない」「この主人公の考え方に共感する」…。本を通して主人公の「人生」を体験できるし、本を通して「自分は何者なのか」を知ることができるのです。

 本は「未来を生きる力」も私たちに与えてくれます。平成27年の歌会始で最年少入選者となった15歳の女子高生は「この本に すべてが詰まっているわけぢゃない だから私が続きを生きる」という歌を詠みました。私にもこの女子高生の歌の通り「未来を生きた教え子」がいます。

 S子は、大変活発な生徒でしたが、ある人間関係のトラブルが原因で、休み時間、教室にいづらくなったようです。一人、図書室で本を読む姿を見るようになりました。いつしかトラブルは収まりましたが、その後も図書室が彼女にとって大切な「居場所」であり、本が彼女にとって大切な「友達」になったのです。

 卒業して数年後、彼女から年賀状が届きました。そこには「今私は小学校の教師として生きがいのある毎日を送っています。中学時代、図書室で過ごした経験がなければ今の私はありません」と書かれていました。その時図書室で読んだ「二十四の瞳」がその後の人生を決定づけたそうです。いま彼女は、本で出合った「大石先生」の「続き」を自分なりに生きているのでしょう。

 本は「自分の成長」を確認できるツールにもなります。お笑い芸人で直木賞作家の又吉 直樹さんは「一番好きな作家は太宰 治です。『人間失格』は中学2年の時に初めて読み、100回くらい読んでいます。特にこの5年で50回くらい。読むたびにどんどん面白くなっています」といっています。一回目と二回目とでは「読み方」が変わっている自分に気づきます。10回目と20回目では「感じ方」が深まっている自分と出会うことができます。回数を重ねるたびに、自分が成長していることに気づかせてくれるのです。

 やや古いデータですが、平成25年の東京都調査が手元にあります。一か月間全く本を手にしなかった子供、すなわち「不読」の子供は小学校2年生は2.6%、小学校5年生は5.4%、中学校2年生は13.2%、高校2年生は31.8%。その主な理由は小1~中2までは「読みたい本がなかった」「読むことに興味がない」。裏を返せば義務教育期の子供たちは「読みたい本」があれば本を手にするだろうし、「読むことへの興味・関心」を持てれば本のページをめくる子供が増えるとは言えないでしょうか。まさに今回、清瀬小が実施したような「司書」というプロによるアプローチこそが、「読書離れ」に対する一つの解になるはずです。

 本市図書館はこのようなアウトリーチを数年来継続してきました。草の根的にじわりじわりとその効果が現れ、本好きの子供が増えているはずです。しかしなかなか学校図書館の利用数が伸びないし、公共図書館に足を向ける子供たちの数も増えません。逆に年齢を重ねていくと本から離れてしまう子供が増える。それはなぜでしょうか?

 私はこれらの取り組みが「イベント」で終わっていないかを振り返ってみる必要があると思うのです。何においても「イベント」はきっかけづくりには有効。「興味」や「感動」、「楽しさ」や「好奇心」、「新たな発見」や「次なる期待」を抱かせてくれます。その点では「その道のプロ」は頼りになります。

 しかし発達が十分ではない子供であればあるほど、また身の回りに『面白いこと』がいくつも転がっているような世の中であればあるほど、あっという間に、「イベント」で得た「興味」も「感動」も「楽しさ」も「好奇心」も霧散していくか、他の『楽しいこと』に移っていきます。
だから「鉄は熱いうちに打た」なければならないのです。興味・関心が消えないうちに意図的に読書の授業を組み込む。「楽しさ」を忘れないうちに担任がもう一度「ブックトーク」をする。「好奇心」が薄れないうちに「今度はこの本を読んでみようよ…」と他の本に誘う…。これらを繰り返すことで、いつしか子供たちは誰に強制されることなく本を手に取るようになるはずです。

 各校の校長先生方には「学校図書館長」の発令をしています。すなわちイベントをイベントで終わらせない「戦術」を考え、遂行すべき立場にあるということ。学校図書館長の皆さんが「イベント」をきっかけに子供の学びをつなげる、広げる、深める「戦術」を如何に立案していただけるか、楽しみにしています。


 

 

教育長 坂田 篤(さかた あつし)

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