教育長あいさつ 令和4年2月号

ページ番号2004265  更新日 2022年4月28日

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写真:教育長

 

「学校に登校すれば元気になる!」

 

 

 コロナ第六波が猛威を振るっています。変異株である「オミクロン」は若年層への感染率が高く、全国規模で小中学校の学級・学年・全校の「閉鎖」が相次いでおり、本市も例外ではありません。

 すでに保健所機能が飽和状態となっており、陽性者が発現した後の「濃厚接触者」の判断が、各自治体の担当部局に任される事態となっていますが、感染経路が不明で判断に苦しむケースが増加しています。「重症化しにくい」との情報もありますが、相手は経験則が効かない「未知のウイルス」。また中学生にとって「最大の勝負事」である受験も控えている中、今まで以上の感染防止対策が求められています。

 このような時こそ「基本」を徹底することが大切。マスク、手洗い、換気、消毒、密の回避、少しでも症状を感じたときの自宅待機、万が一抗原検査やPCR検査を受けた際の確実な報告…。自分自身を守り、家族を守り、社会を守るため、すなわち「コロナとの戦いに勝利する」ために、私たちが果たすべき役割はこの「基本」を徹底することに他ならないのです。もう少しです。頑張りましょう!

 中国の武漢でコロナ感染者が最初に発症してから2年。その間、子供たちに沢山の負担と制限がかけられてきました。中でも2020年3月に強行された全国一斉休校は我が国の学校教育史上初のこと。教育関係者の多くは、「学習の遅れ」「生活習慣の崩れ」「ストレスによる情緒や身体的影響」「不登校等問題行動の増加」等といった、子供への影響を強く心配していましたし、識者や専門機関も同様の主張を行っていましたが、必ずしも客観的な調査やそれに基づく学術的な分析によるものではありませんでした(回答の信頼性に課題がある不特定多数を対象にした研究や、系列での変化を見ることができないピンポイント調査などはいくつか散見されましたが…)。

 そのような中、多摩北部医療センターの小保内小児科部長から、清瀬市教育委員会に共同研究のオファーが入りました。「中学生に対して質問紙による時系列調査(休校中、学校再開一か月後、同六か月後)を行うことで、未曾有の長期休校が子供たちに与えた影響を明らかにする」というもの。

 プロ教師の3K(カン、コツ、経験)は、時として科学やデータを上回るような視点の鋭さや適切な対応、そして大いなる成果を導き出すことがありますが、この度の長期休校は誰もが未経験のこと。3Kだけでは実態の把握や課題のあぶり出しはもちろんのこと、誰に対して、何をどのようにアプローチしていけば最善なのか、すなわち課題に対する適切な対処法を導くことは不可能です。

 また不確実性がどんどん高まるこれからの社会において、何らかの要因で同じような状況に子供たちや学校が追い込まれることも十分想定できます。科学に基づくエビデンスは、そのような緊急事態において、被害を最小限度に留める力や、事後対応(クライシスマネジメント)において、どこにどの程度の処方を行えばよいのかといった「適切な対処法」のヒントを与えてくれるはずです。

 このような背景から共同研究がスタート。5校の中学校にお願いした調査の結果を、多摩北部医療センターのプロジェクトチームがデータ解析と解釈を行うとともに、論文としてまとめ上げてくださいました。教員の指導の下で回答することで調査の正確性が担保されますし、生徒一人一人にID番号を振ることで時系列による分析が可能になります。コロナ関係の研究でこのようなコラボレーションは恐らく初めてのこと。学術的にも大きな価値がある論文のタイトルは「COVID-19パンデミックに伴う長期休校が中学生の睡眠に及ぼした影響」。

 データ一つ一つ取り上げても大変教務深い結果が現れていますが、論を要約すると「睡眠時間より規則正しい生活リズムが健康維持に重要な意味がある」ということ、「規則正しい生活リズムを作り出す学校活動が生徒にとって有用である」ということの2点。すなわち「知育や徳育のみならず子供の健康維持に学校教育そのものが大きな役割を果たしている」ということ。多くで目にし、耳にする結論ですが、科学的な分析よってそれを証明したものはこれまた皆無でしょう。

 論文の内容は私にとって難解の一言であり、簡略化してここに記す術を用いていません。だからといって発表前の論文を勝手に引用するわけにもいきませんので、一部興味のある分析結果のいくつかだけ、趣旨を曲げない程度に記載したいと思います。詳細は発表後の論文を参照してください(校長会や教育委員会などの会議の場で多摩北部から報告していただくことも想定しています)。

 (1)熟睡感:休校中と比較して、一か月後、六か月後の方が「熟睡した!」と感じている生徒が多い。
 ・1,6か月後よりも休校中の方が睡眠時間が長いことがデータで明らかになっているが、熟睡感は1,6か月の方が高い。論文では「(再開後は)起床時刻が朝の一定時間になる⇒朝日を浴びる⇒朝食を食べる⇒適度な運動(登校)をする、この一連の生活リズムによって「熟睡感」を感じられるようになったのではないか」と考察しています。

 (2)食欲:生活リズムの乱れから食欲がない生徒の割合が最も多いのが休校中。また休校中と一か月後の「睡眠中央値」のずれが1時間以上の生徒は、一か月後であっても休校中と同じように食欲がない。
 ・「睡眠中央値のズレ」とは、例えば休校中、夜中の2時に就寝して、翌日の10時に起床していたとすると2時と10時の真ん中の「6時」が休校中の中央値になります。学校再開後、夜の11時に就寝して朝の7時に起床したら「3時」が再開後の中央値。この生徒の休校中と再開後との睡眠中央値のズレは「3時間」ということになります。本調査では1時間以上・未満を比較する分析手法も用いています。
 ・休校時と再会一か月後との「睡眠中央値のズレ」が少ないということは、生活リズムが安定しているということ。そして睡眠時間が同じ8時間であったとしても生活リズムが安定している生徒の方が食欲があるということ。これは「睡眠時間よりも規則正しい生活の方が体調維持には重要である」ことを示唆していると、論文では考察しています。

 (3)倦怠感、日中の眠気:(2)と同様の分析と考察を行っています。

 論文ではこれらの分析と考察を経て、結論に至っています。そこには以下のような内容が記されています。

○休校中の睡眠時間は再開後よりも長い
○にもかかわらず倦怠感などの身体症状が強く出現している
○しかし学校再開後には改善した
○その理由として「登校による規則正しい生活」「登校することによる適度な運動」などの要因が考えられる
○子供たちにとって学校は、生活リズムの調律や自律神経調節のペースメーカーであることが明らかになった

 雑駁な説明で分かりにくい点も多々あったかと思いますが、本研究が与えてくれる示唆は「再び私たちを襲うであろうパンデミック」に備えるためだけではありません。例えば子供の生活リズムが乱れがちになる「夏休み」の過ごし方についても指導の参考になるのではないでしょうか。

 25年前、現場で教壇になっていた頃、私が生徒たちに与えた「夏休みの過ごし方」の注意点はただ一つ。それは「心の中でチャイムを鳴らす40日間にしよう!」。活用する道具は「お料理タイマー」。我がクラスの家庭は、夏休み中お料理タイマーの合図で家族みんなが動く…。面白がって挑戦してくれた家庭がいくつもありました。

 なんとなく「生活リズムが大切だ…」と感じていた当時の私がこの研究結果を目にしていたら、もっと胸を張って、確信をもって生徒たちを指導していたことでしょう。研究結果をどう使うか、真なる勝負はこれからです。
 

 

教育長 坂田 篤(さかた あつし)

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