教育長あいさつ 令和3年10月号

ページ番号2004252  更新日 2022年4月28日

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写真:教育長

 

「100歩進んだ74人の子供たち」

 明治薬科大学の垣尾将貴課長が教育長室を訪問してくださいました。目的は「清瀬子供大学 薬学の部」の実施報告。初対面にもかかわらず、30分という時間がアッという間に過ぎ去るほど「満足感」のある時間でした。それは垣尾課長と「教育の原点」を語り合うことができたからです。私の想いと垣尾課長の「薬学の部」のプロジェクトが見事にシンクロし、互いに響きあうことができたからです。

「清瀬子供大学」は私が夢と希望、ロマンを抱きながら長年温めてきた事業です。「一人一人の子供の『もっと知りたい』『もっとできるようになりたい』という思いに応えてあげたい。そしてそれぞれの子供『興味・関心』『得意分野』を伸ばし、未来に向かって自分らしく歩み続ける力を育んでほしい」…。そんな願いを込めて構想し、具体化のチャンスをうかがっていました。

 有体に言えば、学校で教わることよりももっと高度な学習をしたいと願っている子供や、己の中にある「特に優れた分野」についてその力を一層伸ばしていきたい子供、また特定の教科や学習単元に強い興味・関心があって、もっとゆっくり、じっくりと学びに向かい合いたいと思っている子供、そしてすべてにおいて自信がない中でも、ほのかに感じる「得意なこと」に対して評価したり価値づけたりされなかったことから、自己肯定感が落ち続けてしまっている子供たちが、胸を張って学ぶことができる場を提供したかったのです。

 現在の学校教育では、これらいわゆる「吹きこぼれ」とか「とんがった才能」とかいうカテゴリーに入る子供たちの力を伸ばすことは困難を極めます。義務教育段階での「発展的な学習」や、高校から大学への進学時に適用できる「飛び級制度」等は、それを実現するシステムの一つですが、必ずしもうまくいっているとは言えません。
その背景には「日本の学校教育は100人の子供を等しく10歩進ませることは得意だが、10人の子供を多様な方向に100歩進ませることは苦手である」という、我が国の教育が抱える特性が潜んでいます。

 一時期、「子供の個性を伸ばす指導」とか「一人一人の興味・関心に応じた教育」「個々の子供の特性を生かした教育活動」とかいう「きれいな言葉」を並べた教育論が盛んに交わされましたが、学校文化の中では、これらの言葉の前置きとして「国語も算数も、音楽も体育も、押しなべて習熟したうえで」の一文が加わるのです。平たく言えば「理科が得意だから少しくらい漢字が読めなくてもOK!」とか「掛け算九九ができなくてもサッカーの技術は天才的だから問題なし!」という評価は日本の学校では通用しないのです。

 これは当然と言えば当然のこと。なぜなら義務教育のミッションは、「すべての子供たちに学習指導要領が示す内の習熟を図る」だからです。必然的に教師は「上を伸ばす」よりも「下を引き上げる」ことにエネルギーと時間を費やすのです。そんな「落ちこぼれ」た(そうな)子供たちを救い上げることに全力を尽くしてきた学校に、「吹きこぼれも面倒を見てください」「とんがった才能を開花させる教育を加えなさい」と命ずることは、学校を潰す「愚行」に他なりません。

 では、これまでこの「吹きこぼれ」「とんがった才能」のカテゴリーの子供たちは誰が面倒を見てきたのか。それは「家庭」です。ピアノ教室然り、サッカークラブ然り、学習塾しかり、博物館や美術館に連れてくこと然り、親が子に「手伝わせること」然り…。

 もうお分かりと思いますが、家庭の教育力の格差や経済的格差が、子供の能力を伸ばすことの格差を生んでしまっているのです。すなわち経済的なゆとりがある家庭の子供は、「吹きこぼれ」にもならないし、教育力が高い家庭の子供は「とんがった才能」をより磨く時と場が与えられる。その反対に…、全て語る必要はないでしょう。

 「清瀬子供大学」は、社会教育というフィールドで、教育委員会と民間企業やNPO法人、市内の各種専門機関などが連携して、経済や環境の別なく、それを希望する子供たちの特に優れた能力を伸ばしたり、一人一人が心に抱く興味・関心を一層高めたりする教育を実現していこうとするものです。

 清瀬には実に多様な「学びの資源」があります。「医療のまち」と称されるほどの医療機関。我が国のモノづくり文化をけん引する大林組研究所や株式会社日本サーモスタット。清瀬のニンジンやホウレンソウは農業のまちとしての代表格だし、結核をはじめとする歴史や俳句に代表される文化は清瀬の宝。これらの力を活用して、子供たちに「学校では体験できない学び」を提供していこうというプロジェクト。

 令和3年度もいよいよ「トライヤル」がスタートしました。一つは「理科の部」。6月26日に(社)ディレクトフォースさんの協力で開催できました(新生!400字の第6号に紹介済みです)。また11月23日(祝)には「音楽の部」が開かれます。そして冒頭に紹介した明治薬科大学と連携した「薬学の部」は、夏休み中にオンラインで開催されました。その中心となって企画立案、運営にあたってくださったのが、垣尾課長というわけです。

 参加者は清瀬の小学校5,6年生。定員40名のところ74名もの子供が応募(明薬大のご配慮で定員を拡大し全員受講)。テーマは「自分の酵素を調べてみよう」。プログラムの最初は、大学の先生による「私たちの体の中で何が起きているんだろう?」の講義。次はいよいよ実験。申込者にはキットが送られ、オンライン動画を見ながら各自が挑戦する。実験結果の考察を行い、最後は再び大学の先生による体験談。テーマは「自分は何で科学者になろうと思ったのか」。

 大学が作成したテキストには、子供の興味・関心を高める様々な仕掛けがあり、時にはノーベル賞受賞者の中山伸弥教授の実験が掲載されていたり、私たち大人が見ても「なるほど…」と思える記載があったりと、非常に優れたもの。最初のページには、私たちも各校に奨励している「今日の目標」が明記されている(「なぜだろう、面白いな、わかった!を大切に」「失敗を恐れず、積極的に取り組もう」「実験を楽しもう+何が起きているか考えよう」)。

 そして何よりも感心したのは、学びが知識や理解、体験に留まらず、「想像」「創造」にまで発展している点。「夢の酵素を考えてみよう」のレポートがそれ。本レポートを提出すれば、学長の印鑑が押された修了証が漏れることになっている。

 垣尾課長がレポートの写しを持ってきてくれました。ある子供は「BOK酵素」を考えてくれた。「B病状が O重いほど K効果のある 酵素」とのこと。説明欄には「悪い細胞を吸収してよい細胞に変える」「おばあちゃんがガンだから、悪い細胞をなくしたいと思ったから」とある。

 違う子供が創造したのは「プラスチックを分解する酵素」。「この酵素を川や海にまけば、ごみ問題を解決できると思った」。またある子供は「コロナウイルスの金を包み込んで酸素に変える酵素」。「コロナウイルスでたくさんの人が苦しんでいるから」の理由が書かれている。子供たちの視点が社会的課題に向いていることがわかります。

 如何でしょう。このプログラムには新しい学習指導要領の要素が、そこかしこにちりばめられていることがお分かりと思います。また「試して確かめる」という認知の基本が体験できるし、キャリア教育にもつながります。

 74名の子供たちの中で、今回の学びをきっかけに、一人でも化学や薬学の領域を志してくれたらこんなに素晴らしいことはありません。明薬大のお力添えで、また一つ「社会総がかりで子供を育てる清瀬」が実現しました。
 

教育長 坂田 篤(さかた あつし)

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